ヒロカズの読書日記

このブログは、読書したことから、考えたことを書いていくブログです

布団の似合わない男

 つい先日のことだった。とある友人と寝る前の楽しみについて話していた折のことである。一日の終わり、その日を締めくくるに足るイベントとして、どんな楽しみを享受しているか、そういった話題だったのだが、その方は、なんと、すぐに布団に入って寝る、という恐るべき答えをのたまった。
 それは、その方がおれの担当の看護師の方だからかもしれない。おれは友人として認識しているが、その方からしたら、おれは担当の患者である。そういった意味で、遠慮して回答した可能性も十分にある。
 なんというか、男らしくないな、とおれはなんとなく思ったのだった。奇妙に聞こえるかもしれないが、すぐに寝る男はなんとなくワイルドさに欠けるというか、大人しすぎる。
 その方の髪形を考えたとき、なんとなくげんなりしてしまったことは事実である。
 というのも、その方は、ガタイもよく、日焼けして、ジムによく通い、女を好み、強面風の顔つきをして、週末は友達と飲み歩いている。
 そういった事実は、日々の会話の中でリサーチ済みだった。
 そんな男が、日夜、布団をかぶって、スース―寝ているところを想像して、なんとなく拍子抜けに近い感覚を味わった。この男は、布団が似合わない、という無理な注文をつけている、と気づいたのは、その日、部屋でその男と話したずっと後のことだった。
 そのときに気づいたのは、なんというか、おれの中で、その男というのが一種スーパーマンのような、神話的な存在として記憶されているという意外な事実だった。
 ひょっとすると、この男は眠らないのではないか、という勘違いをおれの中で育むような要素がその男にはある。あふれるバイタリティのようなものが体中から発散されているのだ。少々大げさに言えば、アラジンに出てくる「ジーニー」のような感じと言えば伝わるだろうか。おれはこのとき、その勘違いを恥じた。この男も立派な一人の人間であり、眠ることは当然の権利である。おれは想像の中で全くその男を眠らせていなかった。
 これまでその男にはさんざん世話になってきた。布団が似合わない男でも、眠ることはあるという単純な事実を忘れてはいけない。