ヒロカズの読書日記

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清潔な生活(村上春樹著「村上朝日堂」)感想文

 清潔な生活(村上春樹著「村上朝日堂」)を読んだ。このエッセイには人としての生活の頼りなさが爽やかな筆致で描かれており、読むものの心になんとも言えない切なさを残す。人間はどんどん変わっていく。それは年を取る以上仕方のないことだ。
 村上さんの学生時代はヒッピー・ムーヴメントによって半ば強引にその進路を決定づけられてしまう。それがこのエッセイのテーマである「人生の儚さ」とどう結びつくのか。
 村上さんは自身の清潔さについて「最近ではすすんで風呂に入ったり床屋に言ったりするようになった」と言っているが、そこにはそこはかとなく哀しみのようなものが滲んでいる。それは間違いなく、これまで自身が歩んできた生活と出会った人たちに対する懐かしさに裏打ちされている。
「なにしろあの頃は汚ないことがステータス・シンボルみたいなものだから、みんな床屋には行かない、髭は剃らない、風呂に入らない、服は変えない、もう無茶苦茶である。」という筆致にはかつての生活に対する哀惜が滲む。
 時の流れの果てにたどり着いた生活。それは「昔のことは誰も知らない。」ものであり、やはり孤独なものだ。しかし、それでもなお生活は続く。そこに込められたタイトルの「清潔な生活」という意味について思いをはせる。

 

村上朝日堂 (新潮文庫)

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